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眼軸長(眼球の奥行き)が伸びることで近視になります。
人間の眼球の奥行きは、生まれたときは約17mmで軽い遠視のことが多いのですが、小学校低学年で24mmと成長して正視(近視でも遠視でもない状態)になっていきます。
この後24mmで止まってくれれば良いのですが、25、26、27mmと伸びてしまうと、近視になってしまいます。
眼球が伸びるのは、体が成長していく18歳くらいまで続きます。
なぜ眼球が伸びてしまうのか?
遺伝的な要因と環境による要因があると考えられています。
近年、近視が増えているのは、環境の要因が大きいと考えられています。
眼球の奥には、光を感じる網膜がありますが、【ぼやけた映像が映り続けていると、その映像をうまく捕えようとして眼球が伸びる】ことが最近分かってきました。
また1日2時間以上の屋外活動によって近視の発症が抑えられ、進行も緩やかになることが分かってきました。理由はまだ良く分かっていませんが、太陽光により、近視抑制遺伝子が活性化されるとも言われています。
網膜にぼやけた映像が映る時とは?
近視も遠視もない人は、遠くを見る時は、目の中にあるピント調節する筋肉(=毛様体筋)はリラックスしており、近くを見る時にこの毛様体筋は緊張します。
近くを見続けていると、この筋肉が肩こりのように固まってしまい、うまくピント合わせができず、ぼやけた映像が網膜に映ってしまいます。この状態を調節緊張を呼び、眼球が伸びていく原因と考えられています。
近視が進みすぎるとどうなるか?
眼球に内張りである網膜がどんどん引き延ばされて薄くなり、中年以降になると破れて網膜剥離になりやすくなったり、視神経が変形して緑内障になりやすくなります。また近視性の黄斑変性の発症リスクも高まります。
将来、レーシックや有水晶体眼内レンズなどの、近視矯正手術を受けても、眼球が伸びた状態は変わらないため、上記の病気のリスクが減るわけではありません。
残念ながら、一度伸びてしまった眼球を元に戻す方法は現時点ではありません。つまり学童において近視を治したり、完全に進行を止めることは現在に医学では難しいです。ただし近視の進行を緩やかにするための研究は多くされています。そこで
近視をなるべく進行させないために
①屋外活動をしましょう。
太陽光は1日2時間以上浴びると30%の近視抑制作用があると言われています。(運動量と近視の抑制作用は関連ないと言われています。)(※1)
台湾では近年、学校の授業を1日2時間屋外で行うようにしたところ、近視の学童が少しずつ減少しています。
②近くを長時間見ない生活を心掛けましょう。
具体的にはゲームやスマホ、タブレット端末の時間を制限したり、読書はめくるたびに遠くを3~4秒見るとよいです。
③メガネについて。
生活に困ってきたら眼鏡をかけましょう。子供の場合、学校の黒板が見えにくくなったら眼鏡をかけ始める時期です
眼鏡をかけると進行するのか質問がありますが、ぼやけた映像を見ると進行しやすくなるので、かけなくても進行してきますし、かけても眼球は球体なのに対し眼鏡は平面的なので周辺の映像がぼやけることで進行してきます。
また2000年以降、しっかりと1.0見える「完全矯正眼鏡」と0.7くらいに合わせた「低矯正眼鏡」のどちらが近視が進行しにくいか比較検討が行われました。
日本では従来は「弱い度のほうが進みにくい」と考えられてきましたが、完全矯正(しっかり見えるように合わせた)眼鏡のほうが進みにくいことが分かってきています。
④眼鏡vsコンタクトレンズ
眼鏡より周辺部の像のゆがみが少ないため、近視抑制作用があると言われています。
夜間就寝時ハードコンタクトレンズを装用して、日中は裸眼で良好な視力で生活するオルソケラトロジーには近視進行抑制作用が日本を含め世界中で報告されており、長期試験での有効性も報告されています(保険適応外ですが、当院でも取り扱いはあります。)
遠近両用ソフトレンズでも近視進行抑制作用が報告され、欧米では、いくつかのソフトコンタクトが近視抑制用として認可されています。この海外で認可をうけている遠近両用ソフトコンタクトレンズですが、同じデザインのものが日本でも入手可能です。
また遠近両用ソフトコンタクトといかないまでも、普通のコンタクトレンズでもレンズデザインには球面レンズと非球面レンズがあり、周辺の像のひずみの少ない非球面レンズの方が進行が遅いと報告されています。海外では小学生のうちからコンタクトレンズを使用するのが一般的になりつつあり、親御さんの管理下で使用することもあり、リスクは低いと言われています。また小学生で使用するのであれば、1日使い捨てタイプのソフトコンタクトレンズが良いでしょう。
自由診療のオルソケラトロジーについて
当院で使用しているオルソケラトロジーレンズは、SEED社より入手している「ブレスオーコレクト」になります。
これは2012年に国内承認されており、2017年日本眼科学会からは20歳未満には慎重処方の条件付きながら認証されているハードコンタクトレンズです。
費用
両眼で150,000円 税込み(2年間 計10回分の検査料金含む)
6か月以内の度数変更は無料です。
6か月過ぎてのコンタクト交換は1枚につき47,000円必要です。
度数が変わりなくても2年したら交換が必要です。
定期検診は初年度6回 2年目4回となっています。
リスク・副作用としては 物理的刺激による異物感・角膜上皮障害・角膜感染症が挙げられます。
⑤低濃度アトロピン(製剤名マイオピン)を点眼する。
1日1回、夜に点眼をします。シンガポールの研究(※2)では約400人の小学生を使った試験で70%の進行抑制作用が報告されました。ただし1割程度の子供では、効果が乏しかったようです。
当初この実験ではかなり濃度の濃いアトロピンが使用され、2年間でほとんど近視は進行しなかったものの点眼中の副作用も多く、中止後近視が急激に進行するリバウンドも認められました。第2弾としてアトロピンの濃度を薄めて再度小学生に対し試験を行い、副作用が出ず、リバウンドもなく、近視抑制作用の認められる低濃度(0.01%)が見いだされされ製剤化されています。
日本でも168人のボランティアの小学生を使った試験においても0.01%アトロピンに近視抑制作用が確認されましたが、シンガポールの報告ほどではありませんでした。安全性についても問題ありませんでした。この結果を踏まえて現在日本国内で製剤化に向けた治験が進んでおります。
また最近では0.025%アトロピンもシンガポールで製剤化されてします。
当院ではシンガポールから低濃度アトロピン(商品名マイオピン)を輸入しており、ご希望の方には0.01%点眼1本(=1か月分)3,700円 0.025%点眼1本4,000円で販売しております。0.01%点眼で効果の乏しい方に0.025%点眼をお勧めしています。健康保険適応外のため、継続検査には1回あたり1,000円の自己負担が必要となります。
またオルソケラトロジーとの併用効果についても報告されており、より近視進行の抑制作用があったとされています。
・低濃度アトロピン(商品名マイオピン)
ご料金 | ・0.01%点眼1本5:3,700円(税込) ・0.025%点眼1本:4,000円(税込) ・継続検査1回5%:1,000円(税込) |
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治療期間目安/治療回数目安 | 6歳~12歳、3~4ヶ月毎の検診 |
リスク・副作用 | 薬剤アレルギー性結膜炎、接触性皮膚炎など |
未承認医薬品等であることの明示 | 国内未承認薬剤機器を使用した治療になります |
同一の成分や性能を有する他の国内承認医薬品等 | 無し |
諸外国における安全性等に係る情報 | 治療に伴う重大な副作用の報告はありません。 |
入手経路等 | Eye-Lens Pte Ltd社より入手しています。 |
⑥クロセチンをとる。
慶応義塾大学の研究(※3)によると、クチナシやサフランに含まれるクロセチンというカロテノイドには近視抑制作用があるかもしれません。
マウスを使った実験では太陽光を当てると近視抑制作用があることが分かり、その機序を調べたところ、ある近視抑制遺伝子が光によって活性化されることが分かりました。その遺伝子を食品で活性化できないか研究したところクロセチンにその効果があることが分かりました。早速ボランティアの小学生に半年間内服してもらったところ近視抑制作用があったようです。そのことよりサプリメントが作られています。
ロートクリアビジョンジュニア(クロセチンのサプリメント)
1日1錠、1箱30錠入り 2,500円で販売しています。(定価3,240円)
最後になりましたが、いずれも近視を治すことはできず、進行を止めるわけでもありません。あくまで、進行をゆっくりにするためのものです。当院では患者さんに選択肢として説明をし、治療の準備はしておりますが、必ずしないといけないと言っているわけではありませんので、ご希望があれば治療開始をするという姿勢を取らせていただいております。
(※1)
Torii H et al:Violet Light Expose Can Be a Preventive Strategy Against Myopia Progression.EBioMedecine 15:210~219,2017
太陽光に含まれるViolet光は80%以上透過するコンタクトレンズを使用した13~18歳の日本人116例116眼と80%未満のコンタクトレンズを使用した31例31眼(背景に有意差なし 13~18歳)を比較した。その結果Violet光をよく透過するコンタクトを使用した場合眼軸長伸長量は0.14mm/年に対し そうでない場合は0.19mm/年となった。
Wu PC et al:Myopia prevention and Outdoor Light Intensity in a School-Based Cluster Randomized Trial.Ophthalmology125:1239-50,doi:10.1061/j.ophtha.2017.12.011,2018
台湾6~7歳693人を学校の休み時間に屋外活動をさせたところ、1年後の近視の罹患率は14.47%に対し対照群では17.4%、屈折変化量も-0.35D(対照-0.47D)眼軸長変化0.28mm(対照0.33mm)
(※2)
ChuaWH et al:Atropine for the treatment of childhood myopia.Ohthalmology113:2285-91,2006
シンガポール400人の6~12歳の小児の片眼に1日1回1%アトロピンもしくは偽薬を1日1回2年間点眼。2年後眼軸長はアトロピン点眼群ではほぼ変化なし、偽薬群では0.38mm伸長した。一般にはATOM-1と呼ばれる検証
Tong L et al:Atropine for the treatment of childhood myopia:effect on myopia progression after cessation of atropine.Ophthalmology 116:572-9,2009
上記症例にアトロピン点眼を中止し1年間経過観察したところ、急激に眼軸長が伸長し、リバウンドが見られた
Chia A et al:Atropine treatment of chaildhood myopia:safety and efficacy of 0.5%,0.1%and0.01% doses.Ophtahlmology119:347-54,2012
シンガポール400人6~12歳の学童に濃度を薄めたアトロピン点眼を1日1回2年間使用し、その後中止し1年間のリバウンドを調べた。0.01%アトロピンでは近視抑制作用が認められ、重篤な副作用は認めず、中止後のリバウンドは認めなかった。一般にATOM-2と呼ばれる検証
Efficacy and safety of 0.01%atropine for prevention of childhood myopia in a 2your randomized placebo-controlled study.Japanese Journal of Ophthalmology65,315-325,2001
日本人学童6~12歳の168人を2郡に分け、偽薬もしくは0.01%アトロピン点眼を1日1回2年間経過を観察した。ATOM-Jと呼ばれる検証。
(※3)
2019年8月8日 慶應義塾大学 クロセチンが児童の近視進行を抑制:
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2019/8/8/190808-1.pdf